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ジャコメッティ展
2017.8.27
津野 恵美子

こんにちは.津野建築設計室の津野です.

プロフィールの趣味の欄には古建築旅行とありますが,日々の仕事に追われてなかなかまとまった時間が取れない.そんなときは短時間で別世界に連れて行ってもらえる,展覧会を見に行きます.仕事柄建築の展覧会を見に行くことも多いですが,思わぬ刺激をもらえるのは美術展の方が多いかもしれません.

今回は今週見に行ったジャコメッティ展でについて書いてみようと思います.

 

 

6/14〜9/4まで国立新美術館で開催されているジャコメッティ展.

彼の特徴である,ひょろっとした異様に細長い彫刻はあちらこちらで見たことはありましたが,まとまった個展は初めてでした.

なぜあのような細長いプロポーションの彫刻を作り続けたのか,今までよくわからずに見ていましたが,意外なことに「見たものをありのまま形にする」ことを一生を掛けて追求した結果だそうです.

あんな不思議な人型が「ありのまま」なんて,最初は何を言っているのか良く理解できなかったのですが,いくつもの作品を見続けているうちに,彼の目指した「ありのまま」とは,物に対する知識を省いて,純粋な知覚としての対象を何とか形にしようとしたのではないかと思うようになりました.

 

言葉が下手で意味がわかりづらいですね.

 

私達は人の体の大きさとかスケール感というものを肌感覚で知っています.目で見た人の形を,その知識としてのスケール感で補正して認識してしまっているのではないか.実際に目が知覚している物は違うのではないか.と疑ってかかること.

その疑いを,あらゆる手法で形にしてみること.そういった思考の果てが,あの棒のように異様な人の形なのではないか.そして,その思考が透けて見えるから,ただの棒ではなく,一つ一つの個性がはっきり伝わってくるのではないかと感じるようになりました.

 

ひるがえって建築を考えると,距離や空間形状を人がどう知覚しているのか.様々な研究はありますが,すべてが数値化されているわけではなく,最終的には空間を作ることを生業としている私達建築家の手にまかされています.

私達はつい,畳数やnLDKなどの,既製の尺度に空間を当てはめて評価してしまいがちですが,本来の建築空間の価値とはそういうものでは測れないその空間がもつ個性にあるはずです.

とはいえ,奇抜な形や勝手な思いつきをつくることが個性なわけではなく,使う人がどう感じるか,どう認識するか.どんな寸法を与えたら最適な空間と言えるのかを,実際に使う人にヒアリングしたり,人体寸法から割り出したり,想像を膨らませたりしながら,徹底的に検討を重ねて,自覚的に寸法を決めていくことが,オリジナルな空間につながるのではないかと.

 

そんなことをぐるぐると考えるきっかけとなった展覧会でした.

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